クラウド環境の導入やテレワークが普及したことによって
IDaaSとは「Identity as a Service」の略であり、組織がアイデンティティとアクセス管理(IAM)の目的で使用するクラウドベースのソリューションですが、こうした利便性の裏には見過ごせないリスクも存在します。例えば、単一障害のリスクや特権アカウントの侵害によって重大な情報漏洩に繋がるなどのリスクも存在します。
そのため、IDaaSでシングルサインオンなどを導入する際には、その機能とともに潜在的な脆弱性についても正しく理解し、適切な対策を講じることが重要です。
この記事では、IDaaSの主な機能やIDaaSを使ったSSOの問題点、そしてその欠点を補うソリューションをご紹介します。
IDaaSとは?
IDaaSは「Identity as a Service」の略であり、その名の通り、ID管理をクラウド上で提供するサービスを指します。従来のように企業のサーバー内でID情報を管理するのではなく、クラウドを活用することで、場所を問わずに一元管理が可能となり、運用の柔軟性と効率性が大幅に向上します。多くの企業が、オンプレミスからクラウドベースのID管理へとシフトしており、Okta、Microsoft Entra ID(旧Azure AD)、Google Cloud Identityといった大手のサービスが導入先として広く知られています。これらは、企業の規模や業種に応じて柔軟に対応できるという点で高い評価を得ています。
Okta, Microsoft Entra ID, and Google Cloud Identityなどがある。
IDaaSの主な機能とは?
IDaaSは、単にID情報を保管・管理するだけの仕組みではありません。現代のクラウドベースのIT環境において、IDaaSはセキュリティと利便性を両立するための多機能な基盤として進化しています。
ここでは、問題点を理解するためにIDaaSが提供する代表的な機能について詳しく見ていきましょう。

シングルサインオン(SSO)
シングルサインオンは、1回の認証で複数のクラウドサービスや業務アプリケーションにアクセスできる仕組みです。ユーザーは、SSOに対応したログインポータルに一度ログインすれば、その後は追加の認証なしで日常業務に必要な各種サービスを利用できます。パスワードの数が減ることで、ユーザー側の負担が軽減されるだけでなく、管理者としてもパスワードに関わるサポート工数(リセット依頼など)を大幅に削減できます。
加えて、すべてのアクセスがSSO経由になることで、可視性と管理性も向上します。また、パスワードの使い回しや脆弱なパスワード設定などのセキュリティリスクも軽減されます。
多要素認証(MFA)
多要素認証は、ログイン時にパスワードに加えてワンタイムコードや生体認証など、異なる種類の認証要素を組み合わせることで、セキュリティを強化する仕組みです。IDとパスワードだけでは防げないフィッシングやパスワード型攻撃に対して有効であり、万が一パスワードが漏洩した場合でも、不正ログインを防ぐための重要な追加防御手段となります。
現在では、ゼロトラストセキュリティを実現するうえでもMFAは欠かせない基本要素とされており、企業のアクセス管理においては導入が当たり前になりつつあります。IDaaSにおいても、MFAは標準的な機能として広く採用されています。
クラウドディレクトリサービス
クラウドディレクトリは、従来のオンプレミス型ディレクトリサービス(例:Active Directory)に代わって、ユーザー情報をクラウドベースで一元管理する仕組みです。オンプレ環境との連携も可能で、ハイブリッド構成にも柔軟に対応できます。たとえば、社内ユーザーはAD経由で認証し、外部の取引先や業務委託先にはクラウドディレクトリを使ってアクセス制御を行う、といった運用もスムーズに実現可能です。組織の境界が曖昧になるクラウド時代において、IDの集約管理とアクセスの最適化を行う上で、非常に有効な手段となります。
ユーザープロビジョニングとライフサイクル管理
IDaaSは、ユーザーアカウントの作成から削除、役割変更までの一連のライフサイクルを自動で管理する機能も提供しています。たとえば、新入社員が入社すると同時に必要なアプリへのアクセスを自動付与し、退職時にはすべての権限を即座に無効化することで、セキュリティリスクを最小限に抑えることができます。さらに、異動や昇進などの人事変更にも柔軟に対応し、常に適切なアクセス権が保たれるよう設計されています。
IDaaSによるシングルサインオンの問題点とは?
IDaaSを活用したシングルサインオン(SSO)は、業務アプリケーションへのアクセスを効率化し、ユーザーの利便性を向上させる有効な手段ですが、すべてのアクセス認証を一元化するという特性上、いくつかの運用課題やセキュリティ上のリスクも孕んでいます。ここでは、SSO運用における代表的な問題点について解説します。
IDaaS停止による業務停止
シングルサインオン(SSO)は、すべての業務アプリケーションへの認証をIDaaSに一元化する仕組みであるため、IDaaSサービスそのものが利用できなくなると、ユーザーは一切のシステムにアクセスできなくなります。これが、IDaaSの稼働状況が組織の業務継続性に直結するという点で、非常に大きな懸念となります。
たとえば、IDaaSを提供するクラウドサービスが障害を起こした場合、社員はメールやチャット、ファイル共有、SaaSアプリなど、すべての業務ツールにログインできなくなり、業務が一時的に完全停止してしまうリスクがあります。特に、IDaaSにすべてを統合している環境では、「認証の入り口」が1つしかないため、その入り口が閉ざされると全社的な影響を受ける構造になります。
SSOに対応していないアクセス管理
すべての業務システムがSSOに対応しているわけではなく、レガシーなアプリケーションや一部のオンプレミス環境では個別のID管理が必要になるケースも存在します。このような「SSO対象外システム」に対して、別途アカウントを発行し、手動で管理しなければならない場面が出てくると、IT部門の運用負担が増えるだけでなく、管理が分散されることでセキュリティリスクも高まります。
結果として、SSO環境と非SSO環境の二重管理が発生し、IDライフサイクルの整合性が取れなくなる恐れがあります。また、ユーザー側でもシステムごとに異なる認証方式を求められることで、混乱やパスワードの使い回しなどを招きかねません。
一時的な権限譲渡が複雑
たとえば、担当者の休暇中に代理で業務を引き継ぐ必要がある場合や、プロジェクトの都合で短期間だけ別のメンバーにアクセス権を渡したいといったケースは、現場ではよくある状況です。こうした「一時的な権限譲渡」は、柔軟なアクセス制御を求められる場面の一つです。
IDaaSやSSOソリューションでは、権限の一元管理によって標準的なアクセス制御は効率化されていますが、このような例外的ケースに対する運用はやや煩雑になることがあります。期間指定でのアクセス権付与や、自動的な権限失効といった柔軟な設定ができない、またはその機能が限定されている場合、管理者が手動で都度対応せざるを得ません。
このような手動対応は、作業ミスの温床にもなりやすく、意図せずアクセス権が残ってしまうといったセキュリティリスクにもつながります。IDaaSの基本機能だけではカバーしきれないこうしたケースでは、追加のアクセス制御ツールやワークフロー設計が必要になることもあります。
ログ監視・可視化の難しさ
SSOの導入により、アクセスの窓口が1カ所に集約される反面、そのアクセスログの監視と分析も集中することになります。IDaaSプラットフォームによっては、ログの取得範囲が限定的であったり、検索や可視化がしづらいインターフェースであったりすることもあり、セキュリティインシデントの兆候を見落とすリスクが高まります。
特に、大量のログデータの中から異常行動を見つけるには、SIEMなどの外部ツールとの連携や、アラート設定の最適化が必要です。こうした設定やチューニングが不十分だと、ログは蓄積されるだけで活用されず、「取っているだけで見ていない」状態になってしまいがちです。リアルタイム性や可視化の工夫がされていない環境では、潜在的な脅威を早期に検出するのが難しくなります。
特権アカウントが標的になりやすい
SSO環境では、管理者権限を持つ特権アカウントの価値が極めて高くなります。これらのアカウントは、IDaaS全体や連携アプリケーションに対して広範な操作権限を持つため、攻撃者にとっては格好の標的です。特権IDの侵害は、企業の情報資産に対する完全なコントロールを奪われることに直結し、重大な情報漏洩やサービス停止を引き起こす恐れがあります。
加えて、特権アカウントが他の業務用IDと同じSSO基盤上に存在している場合、そのアクセス経路が統一されてしまい、防御層が薄くなる危険性もあります。
結果として、特権アカウントが侵害されるとそのアカウントから水平展開なども可能だったり、組織内のほとんどの情報にアクセスできてしまい重大な情報漏洩などを引き起こすおそれがあります。
次世代型PAMがIDaaSの欠点を補うポイント
IDaaSは、ユーザー認証とID管理を一元化することで、業務効率とセキュリティを高める優れたソリューションです。しかし、特権アカウントの制御や一時的なアクセス管理など、より高度なアクセス制御が必要な場面では、IDaaS単体では限界があります。こうした課題を補完し、より堅牢なアクセス管理を実現するのがKeeperPAMのような次世代型PAMとの連携です。
ここでは、IDaaSと次世代型PAMを連携することで得られる具体的なメリットを解説します。
特権アカウントのアクセス制御を向上
特権アカウントは、システム設定の変更やデータベース管理など、極めて高い権限を持つため、セキュリティ上の最大のリスク領域となります。IDaaSではユーザーの認証を一元化できますが、その後のアクセス制御まではカバーしきれないことが一般的です。
KeeperPAMのような次世代型PAMを組み合わせることで、特権アカウントへのアクセスを細かく制御し、必要なときに必要なリソースだけを使用させる「最小権限アクセス」が実現できます。さらに、アクセス経路の制限や多要素認証の強化、アクセス時間や端末条件の設定など、高精度なポリシー設定が可能になります。
一時的なアクセス権付与がスムーズに
一時的な業務支援や代理対応など、短時間だけ特定のリソースにアクセスさせたいという場面は、日常的な業務の中で頻繁に発生します。しかし、IDaaSだけではこのような一時的アクセスに対して、柔軟なスケジューリングや自動的な権限失効といった対応が難しく、手動による操作や煩雑なワークフローが必要になることがあります。これにより、運用ミスによる権限の残存やセキュリティリスクが生じやすくなります。
次世代型PAMを活用することで、こうした一時的アクセスに対して「ジャストインタイムアクセス(Just-In-Time Access)」を実現できます。アクセスの有効期間や利用回数を事前に設定し、必要なときだけ一時的なアクセス権を発行し、使用後は自動的に権限を無効化することで、最小限のリスクで安全な運用が可能になります。
詳細なアクセスログの記録と可視化
IDaaSを導入しても、ユーザーがシステム内でどのような操作を行ったかといった詳細な動きまで把握するのは難しい場合があります。特に、「誰が、いつ、どこにアクセスし、何をしたか」といった情報は、IDaaS側のログの粒度や可視化機能に左右され、十分に追跡できないケースもあります。
次世代型PAMは、この課題に対し、高度なセッション管理機能を提供します。ユーザーがアクセスした操作セッションを録画したり、リアルタイムで監視したりすることが可能で、不審な行動の早期発見や、後からの監査にも迅速に対応できます。また、操作履歴はレポート形式で出力でき、コンプライアンスや内部統制の観点からも非常に有用です。IDaaSでは把握しきれない領域まで、次世代型PAMが補完し、アクセスの「中身」まで可視化することができます。
ハイブリッド環境にも対応
多くのIDaaSはクラウド上のSaaSアプリケーションを前提に設計されているため、オンプレミスのシステムやレガシー環境との連携に課題を抱えることがあります。特に、SSHやRDPなど、インフラレベルのアクセスに対する制御や可視化は難しいと課題を抱えている組織もよくあります。
次世代型PAMは、クラウド・オンプレミスを問わず、同一のインターフェースであらゆるリソースへのアクセスを一元的に管理できます。オンプレのLinuxサーバーや社内のネットワーク機器、クラウド上の管理コンソールなど、環境を問わずポリシー適用やログ記録を統一できるのが大きな特長です。これにより、ハイブリッド環境でも一貫したセキュリティポリシーを維持しながら、スムーズに運用しやすくなります。
ゼロ知識とゼロトラストの原則に基づいたセキュリティ
IDaaSはユーザーの認証を担い、「誰がアクセスしているか」を確認する仕組みとして非常に優れています。しかし、「そのユーザーが本当に信頼できるのか」「アクセス後に何をするのか」といった観点までは十分にカバーしていないことがあります。そこで重要になるのが、「常に検証する」ことを前提とするゼロトラストの考え方です。
次世代型PAMは、このゼロトラストモデルに準拠したアクセス制御を実現します。アクセスのたびに毎回本人確認を行い、必要最低限のリソースにだけ、必要な時間だけアクセスを許可します。
特筆して、次世代型PAMの中でも、Keeperはゼロトラストだけに留まらず、ゼロ知識アーキテクチャの採用により、ユーザーの認証情報やパスワードをプロバイダー側が一切確認することができない構造となっており、データのプライバシー保護も強固です。
ゼロトラストとゼロ知識、この2つの原則を組み合わせることで、信頼しないことを前提としたセキュアなアクセス制御が可能となり、サイバー脅威の多様化に対応した持続可能なセキュリティモデルを構築できます。
まとめ:次世代型PAMでIDaaSによるシングルサインオンの課題を解決
IDaaSによるシングルサインオン(SSO)は、企業のIT環境においてユーザー管理と認証の効率化を進めるうえで欠かせない存在となっています。しかしその一方で、特権アカウントの管理、一時的なアクセスの柔軟な制御、ログの可視化、ハイブリッド環境への統合、ゼロトラストの実践といった領域では、IDaaS単体ではカバーしきれない課題も浮き彫りになってきました。
こうした課題に対して、次世代型PAMは非常に有効な解決策を提供します。ジャストインタイムアクセスやセッション監視、きめ細かなポリシー管理を通じて、SSO環境の利便性を維持しながら、より強固で柔軟なセキュリティを実現できます。IDaaSとPAMの連携により、「誰がアクセスするか」だけでなく、「何に、どのようにアクセスするか」までを一貫してコントロールできる環境が構築されます。
KeeperPAMは、重要なシステム、アプリケーション、データへのアクセスを保護、監視、管理します。このプラットフォームは、パスワード管理、シークレット管理、接続管理、ゼロトラストアクセス、リモートブラウザ隔離を統合したインターフェースを提供します。
また、統合されたKeeper SSO Connect® は、ゼロ知識パスワード管理と暗号化を可能にするために、既存の SSO ソリューションと統合され、組織は安全かつ簡単にユーザーを Keeper ボルトに認証し、ユーザーボルトを迅速にプロビジョニングすることができます。
この機会に、KeeperPAMのデモをリクエストして、組織の特権アクセスを安全かつ効率的に管理する方法をご覧ください。