クラウド環境の導入やテレワークが普及したことによって
フォレンジック調査とは、サイバーセキュリティインシデントや情報漏洩などの事件・事故が発生した際に、証拠を保全・分析し、原因を究明する調査手法のことです。
ますますサイバー攻撃が高度化している今、フォレンジック調査は「何が、いつ、どこで、誰によって起きたのか」を明らかにし、被害の拡大を防ぐとともに、組織の信頼を守るために不可欠な対策です。
ここでは、フォレンジック調査の目的、その種類、一般的なプロセス、それだけでは不十分な理由やフォレンジック調査と合わせて確認しておくべきソリューションの役目をご紹介します。
フォレンジック調査の目的と役割
サイバー攻撃や情報漏洩といったセキュリティインシデントへの対応には、迅速かつ的確な状況把握が求められます。
例えば、IBMが出しているデータ侵害のコストに関する調査によると、2024年のデータ侵害による世界平均コストは、昨年に比べ10%増加し、過去最高を記録しました。
フォレンジック調査は、そうした事態において証拠を正しく扱い、原因を明らかにし、組織としての適切な対応につなげるための重要な手段で、どのような目的を持つのかいくつか解説します。
証拠の保全と改ざん防止
フォレンジックの最も基本的な役割は、証拠の保全です。
インシデントが発生した際に、ログファイル・通信履歴・デバイス内データなどの証拠を法的に有効な形で保全し、改ざんがないよう正確に管理することが求められます。
そのため、フォレンジックツールや専門技術を用いて、データをライブ取得・ディスクイメージ化などの手法で確実に保護します。
インシデントの原因究明
保全した証拠をもとに、不正アクセスや情報漏洩、マルウェア感染などの原因を特定していくのがフォレンジック調査の重要な工程です。たとえば、誰がどの端末からアクセスを行ったのか、どのような経路を通じて侵入が行われたのか、さらにどのファイルが盗まれたり改ざんされたりしたのかといった点を詳細に分析することで、被害の範囲や影響の全体像を可視化することができます。このような一連の調査・解析のプロセスは、フォレンジック分析と呼ばれています。
法的手続きや社内対処への活用
フォレンジック調査で収集・分析されたデータは、刑事告発・民事訴訟・内部監査・再発防止策の立案などに活用されます。
例えば、情報漏えいが発覚した際にフォレンジック監査を行い、責任の所在を明らかにして再発防止策を構築するのは、企業にとって重要なリスクマネジメントです。
フォレンジック調査の主な種類
フォレンジック調査は調査対象や目的によっていくつかの種類に分類されます。ここでは、代表的な調査範囲などをご紹介します。
コンピュータフォレンジック
PCやサーバー内のストレージに保存されたデータの調査を指します。
削除されたファイルの復元、ログデータの解析、不審な操作履歴の特定などを行い、証拠性のあるデータを抽出します。
主な対象は以下です。
- HDD・SSDのイメージ取得
- ファイルアクセス履歴
- オペレーティングシステムのログ
ネットワークフォレンジック
ネットワーク上を流れるデータ通信の調査・分析を行います。
不審な通信履歴や外部とのデータのやり取りを監視・記録し、どの通信経路から侵入があったのかを明らかにします。
主な対象は以下です。
- パケットキャプチャログ
- IDS/IPSログ
- ファイアウォールの通信記録
メモリ・モバイル・クラウドフォレンジック
近年はPCやサーバーだけでなく、以下のような対象も調査の対象になります。
- メモリフォレンジック:実行中のプロセスやメモリ内データから、マルウェアの活動や脅威を特定
- モバイルフォレンジック:スマートフォンやタブレットの通話履歴・アプリのログ・GPSデータなどを分析
- クラウドフォレンジック:クラウド上のアクセス履歴やストレージデータを調査
このように、フォレンジック調査は対象となる環境やインシデントの性質に応じて多様化しており、クラウド環境などにも対応できる柔軟な体制が求められています。
フォレンジック調査の流れとプロセス
フォレンジック調査は、単にデータを確認するだけではなく、一定の手順に基づいて体系的に進められます。以下は代表的なプロセスの流れです。

1. 証拠保全
フォレンジック調査の第一歩は、関係するデジタルデバイスやシステムからの証拠データの保全です。例えば、社内で不審な通信が検出された場合、該当する社員のPCをすぐにネットワークから隔離し、ディスクイメージを取得してデータの改ざんや上書きを防ぐといった対応が取られます。この段階での初動が遅れると、重要なログや履歴が失われるリスクもあります。
2. データの復元
保全されたデータの中には、既に削除されたファイルや一時的な情報も含まれています。
例えば、調査対象のPCから完全に削除されたと思われていた機密文書が、復元ツールによって一部読み出せたケースがあります。このようなデータの復元作業によって、調査の精度が大きく変わることも珍しくありません。
3. 解析・分析
次に行うのが、取得・復元したデータをもとにした詳細な分析です。
例えば、外部からの不正アクセスが疑われる場合、アクセスログや操作履歴を突き合わせて、いつ・どの端末から・どのアカウントが使われたのかを洗い出します。
4. 報告
調査結果はレポートとしてまとめられ、経営層や関係部門、必要に応じて外部機関に提出されます。
例えば、社内システムの脆弱性が悪用されていたことが調査で判明した場合、その技術的な原因と再発防止策を含めて報告書に記載し、改善アクションを速やかに取ることが求められます。証拠としての信頼性を保つためにも、報告内容の正確性と客観性が重視されます。
こうして、証拠の保全から復元、分析、そして報告に至るまで、フォレンジック調査はインシデントの全貌を明らかにするための重要な手段です。
なぜフォレンジック調査だけでは不十分なのか?
フォレンジック調査は、インシデントの原因を特定し、責任の所在を明らかにするうえで欠かせない手段です。しかし、それだけで組織のセキュリティが万全になるわけではありません。ここでは、なぜフォレンジック調査だけでは不十分なのかを解説します。
インシデント後では「手遅れ」なこともある
フォレンジック調査が行われるタイミングは、多くの場合「インシデントが発覚した後」であることが多いです。すでに情報が漏洩してしまった、システムが改ざんされた、あるいは内部脅威が発生したという状態からスタートした場合、調査によって原因を特定できたとしても、被害そのものを防ぐことはできません。
例えば、顧客情報の流出が発覚して調査を行ったとしても、流出先がダークウェブだった場合、すでに情報が拡散しており、回収や被害の抑止はほぼ不可能です。このように、フォレンジック調査が機能するのは基本的に「何かが起きた後」であることが多いため、そもそもインシデントを未然に防ぐための予防的な仕組みづくりが何よりも重要だといえます。
調査に必要なログが取得できていないケースも
フォレンジック調査が成立するかどうかは、必要なログや証拠データが適切に残っているかにかかっています。
しかし現実には、ログの保存期間が短かったり、アクセス履歴が記録されていなかったりと、調査を開始しても「そもそも手がかりが足りない」ケースもあります。
例えば、不正アクセスが疑われるにもかかわらず、VPN接続のログが1週間で自動削除されており、過去の操作をさかのぼって確認できなかったなどのケースが挙げられます。このような場合、仮に被害が出ていても、誰が何をしたのかを特定するのは極めて困難です。
そのため、必要なログや証拠データが適切に残せる環境を整えることが重要になります。
事前のアクセス管理がセキュリティ体制の土台
こうした課題に対処するためには、インシデント発生後の「調査」だけでなく、平常時からの「管理」と「監視」による予防策が不可欠です。
とくに重要なのが、誰が、いつ、どの情報資産にアクセスしたのかを記録・制御できる仕組みを整えることです。
例えば、特権アカウントの操作がすべてログとして残る環境であれば、問題が発生した際にもすぐにアクセス履歴を追跡でき、調査が格段にスムーズになります。逆に、普段からログが取得されていなければ、調査も対策も後手に回らざるを得ません。
PAMがどのようにフォレンジック調査を支えるのか
ここでは、特権アクセス管理の観点から、PAMフォレンジック調査を支える具体的なポイントを見ていきましょう。
監査証跡
PAMがフォレンジック調査を支援するうえで重要な役割のひとつが、監査証跡の記録・管理です。これは、特権ユーザーのアクセスや操作をすべて記録に残し、必要に応じて追跡・検証できる状態にすることを意味します。
例えば、誰がいつログインし、どのサーバーにアクセスし、どのコマンドを実行したのか、またどのファイルを閲覧・変更・削除したのかなどを詳細に記録します。これらの情報は、フォレンジック調査において「何が起きたのか」「誰が関与していたのか」を明らかにする際の核心的な証拠になります。
PAMによる証跡管理は、ヒューマンエラーや内部脅威、外部攻撃による操作を明確に把握し、後から説明責任を果たすための重要な仕組みです。
セッションの録画・再生
KeeperPAMのような高度なPAMソリューションでは、特権ユーザーの操作を映像のように録画するセッション記録機能が提供されています。これにより、ユーザーがどの画面で、どのような操作を行ったかを視覚的に再現することが可能になります。
フォレンジック調査においては、ログだけでは判断がつかないケースもありますが、セッションの録画・再生機能があれば、より明確かつ説得力のある証拠が得られます。
たとえば、設定ファイルが改変された形跡があった場合、その操作が不注意によるものなのか、意図的な改ざんなのかを映像ベースで検証できれば、調査は格段に進めやすくなります。
この機能は、監査対応だけでなく、教育用途や内部統制の強化にも活用することが可能です。
ゼロトラストの原則に基づくアクセス制御
PAMは、ゼロトラストセキュリティの考え方と非常に親和性が高く、「すべてのアクセスは信頼せず、常に検証する」という原則のもと、最小権限の付与と厳格な認証を実現します。
フォレンジック調査の視点で見ると、ゼロトラスト的なアクセス制御が導入されていれば、不必要なアクセス権が事前に排除されており、なぜこのユーザーがこの情報にアクセスできたのか?という疑問を調査する必要すらなくなる場合もあります。
さらに、多要素認証(MFA)や権限の承認プロセスの適用により、アクセス記録の信頼性も高まり、ログそのものの証拠価値が強化されます。PAMは、フォレンジックの証拠の整合性を根本から支える存在でもあるのです。
複数システムにまたがる操作も一元的に可視化
現代のIT環境では、オンプレミス・クラウド・ハイブリッドと多種多様なシステムが混在しており、それぞれに異なるログや権限管理の仕組みが存在します。
このような環境下では、1件のインシデントを調査するために複数のシステムをまたいでログを集める必要があり、非常に非効率です。
PAMはこうした課題を解決し、複数システムへのアクセスや操作を統合的に管理・記録できるプラットフォームを提供します。特権アカウントの横断的な利用を一元的に可視化できることで、複数のシステムをまたぐ不正操作や複合的なインシデントの全体像を把握しやすくなります。
この「一元化された視点」があることで、フォレンジック調査の分析効率が大幅に向上し、対応スピードの向上にもつながります。
まとめ:フォレンジック調査とPAMを組み合わせて組織の脅威をブロック
情報漏洩や内部脅威、サイバー攻撃など、組織が直面する脅威はますます複雑かつ巧妙になっています。こうしたリスクに対応するには、インシデント発生後のフォレンジック調査だけでなく、インシデントそのものを未然に防ぐ体制づくりが不可欠です。
PAMは、特権ユーザーの行動を可視化し、詳細なログや証跡を記録することで、フォレンジック調査のスピードと精度を高めると同時に、インシデントの抑止力としても機能します。
さらに、セッションの録画・再生やゼロトラストに基づくアクセス制御、一元的なログ管理といった機能を通じて、複雑なIT環境でも強固なセキュリティ基盤を築くことが可能です。
調査と予防のあらゆる面から強化できる次世代型PAMの導入は、もはや一部の大企業だけの話ではありません。
組織の規模を問わず、「もしも」に備えた準備を始めることが、今求められています。
フォレンジックとPAM、それぞれの強みを掛け合わせることで、“起きてしまった後”にも、“起きないようにする”ためにも強い組織づくりをしていくことが求められます。
KeeperPAMのデモをリクエストして、まずは組織内でどのようにフォレンジック調査と組み合わせ、セキュリティ戦略に役立てられるかをご確認ください。