SSH (Secure Shell) プロトコルとは?
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SSH (Secure Shell) プロトコルは、ネットワーク経由でリモートのデバイスに安全に接続し、管理するための暗号化通信プロトコルです。ユーザーは、まるで機器の前で直接操作しているかのようにリモートマシンへアクセスし、制御することができます。SSHは通信データを暗号化し、認証情報やその他の機密情報を不正アクセスから保護します。
SSHとSSLの違い
SSHとSSL (Secure Sockets Layer) は、どちらもデータ送信中の安全性を確保するために設計されたプロトコルですが、利用される目的や場面が異なります。
SSHは主に、ネットワークを介してリモートシステムへ安全にアクセスし、管理するために使用されます。クライアント (一般的にはユーザーのコンピュータ) とリモートサーバー間の通信を暗号化し、安全なコマンドライン操作やファイル転送、その他の管理作業を可能にします。
SSLは、現在ではより正確にはTLS (Transport Layer Security) と呼ばれており、主にHTTPS通信を通じてウェブサーバーとウェブブラウザ間の通信を保護するために設計されたプロトコルです。SSLやTLSは、ログイン情報やクレジットカード情報など、オンラインで送受信される機密データを暗号化することで、データの完全性と機密性を確保します。
SSHプロトコルの仕組み
SSHプロトコルはクライアントサーバーモデルに基づいて設計されており、ユーザーのデバイス (クライアント) からリモートマシン (サーバー) に安全に接続することができます。これにより、ユーザーは公衆Wi-Fiのような信頼できないネットワーク上でも、リモートシステムへのアクセスや管理を安全に行うことができます。
SSH接続プロセスの概要は次のとおりです。
- 接続要求: SSHクライアントがSSHサーバーに対して接続要求を送信します。
- 鍵交換: 安全な通信チャネルを確立するために、クライアントとサーバーは鍵交換アルゴリズムを実行します。このプロセスによって暗号鍵が安全に交換され、両者がセッションの暗号化に使用する共有シークレットを生成します。そのため、たとえデータが第三者に傍受されたとしても、正しい鍵がなければ内容を読み取ることはできません。
- サーバー認証: クライアントは、サーバーの公開鍵を登録済みのサーバー鍵と照合し、サーバーの正当性を確認します。この手順により、クライアントが悪意のあるサーバーや偽装されたサーバーに接続することを防ぎ、中間者攻撃 (MITM) を防止します。
- クライアント認証: サーバーの認証が完了すると、クライアントはパスワードやSSH鍵ペアを使用して認証を行います。
- 暗号化セッションの確立: 認証が正常に完了すると、安全なセッションが確立されます。このセッション中のすべての通信は暗号化されており、機密性、データの完全性、安全な認証が確保されます。
SSHトンネリングとは?
SSHトンネリングは、SSHポートフォワーディング (SSHポート転送) とも呼ばれ、暗号化された接続を介してローカルマシンとリモートマシン間のネットワークトラフィックを安全に転送する仕組みです。これにより、データを第三者に傍受、改ざんされることなく送受信できる「安全なトンネル」が作られます。SSHトンネリングは、社内ネットワークなど外部から直接アクセスできないサービスへの安全な接続、ファイアウォールの制限回避、暗号化されていないプロトコルへの暗号化の追加などに利用されます。
SSHポートフォワーディングの主な種類は3つあります。
- ローカルポートフォワーディング: ローカルマシン上の特定のポートを、SSHを介してリモートマシン上のポートに転送する方式です。これにより、ユーザーはリモートサービスをローカルで動作しているかのように安全に利用できます。
- リモートポートフォワーディング: リモートマシン上のポートを、ローカルマシン上のポートへ転送する方式です。これにより、リモートユーザーはローカルマシン上で動作しているサービスにアクセスできます。
- ダイナミックポートフォワーディング: ローカル環境にSOCKSプロキシ (Socket Secure) を作成し、クライアントの要求に応じて異なる宛先へ動的にトラフィックを転送する方式です。これにより、SSHトンネルを介してアプリケーション単位で柔軟にネットワークトラフィックをルーティングできます。
SSHプロトコルの主な利用例
SSHプロトコルは、リモート通信の保護、ファイル転送、アクセス管理など、幅広い用途で活用されています。以下に、代表的で重要な利用例をご紹介します。
安全なファイル転送
SSHの最も一般的な利用例のひとつが、ローカルシステムとリモートシステム間での安全なファイル転送です。SSHは通信中のデータを保護する暗号化されたチャネルを提供し、サーバーの管理、機密データのバックアップ、ドキュメントの共有などに最適な手段となります。
SSHは、SFTP (Secure File Transfer Protocol) およびSCP (Secure Copy Protocol) を通じて、安全なファイル転送を実現します。SFTPはSSH接続上で動作し、ファイル転送中のすべてのデータを暗号化することで、従来のFTP (File Transfer Protocol) のように平文でデータが送信されることを防ぎます。一方、SCPはSFTPよりもシンプルなプロトコルで、主にシステム間でファイルをコピーすることに特化しており、高速かつ安全にファイルを転送する効率的な方法として利用されます。SSHは、SFTPおよびSCPを通じて暗号化とデータの完全性を提供し、安全なファイル転送において重要な役割を果たしています。
リモートアクセス管理
SSHは、安全で暗号化されたリモートアクセスを可能にします。これは、サーバーの設置場所に物理的に赴くことなくリモートシステムを管理する必要があるシステム管理者やIT担当者にとって特に有用です。SSHを使用すると、ユーザーはリモートマシンに安全に接続し、認証を経て管理作業を実行することができます。これにより、不正アクセスのリスクを最小限に抑えることができます。さらに、安全なファイル転送やトンネリングを通じた内部サービスへのアクセスなども実現でき、リモート環境の管理と運用を効率的かつ安全に行うことができます。
ファイアウォールの回避
SSHトンネリングは、ファイアウォールの制限を回避し、ネットワークトラフィックをリモートサーバー経由で安全に送受信する効果的な方法です。SSHトンネリングを使用すると、ファイアウォールがセキュリティ上の理由で通常制限している特定の受信、送信トラフィックを迂回することができます。たとえば、社内ネットワークのデータベースやウェブアプリケーションなど、ファイアウォールによってブロックされている可能性のあるサービスに接続したい場合に便利です。
プライベートネットワークへのアクセス
SSHトンネリングを使用すると、ファイアウォールやVPN (仮想プライベートネットワーク) によって直接アクセスが制限されている場合でも、内部サービスやプライベートネットワークに安全にアクセスできます。VPNとは異なり、SSHトンネリングでは特定の種類のトラフィックのみをトンネル経由でルーティングできるため、通常は外部からアクセスできないプライベートネットワークリソースにリモートで安全に接続することが可能です。たとえば、リモートで作業しているユーザーが、社内ネットワーク内のプライベートサーバー上にあるデータベースへアクセスする必要があるとします。外部からのアクセスはファイアウォールによってブロックされているため、直接接続することはできません。その場合、ユーザーはローカルポートフォワーディングを利用してSSHトンネルを設定することで、信頼できるサーバーを経由して通信をルーティングし、セキュリティを損なうことなくプライベートデータベースにアクセスすることができます。
クラウドサービスへのアクセス
クラウドプラットフォームでは、アプリケーションやインフラがリモート上の仮想マシンで運用されていることが多くあります。SSHは、これらの環境と安全にやり取りするための標準的なプロトコルです。SSHを使用することで、ユーザーはクラウドサーバーに接続し、ソフトウェアのインストールや問題のトラブルシューティングなどの作業をリモートで安全に行うことができます。
SSHのセキュリティリスク
SSHはリモートアクセスやデータ転送において高いセキュリティを提供しますが、潜在的なリスクがまったくないわけではありません。一般的なセキュリティ上の問題としては、アクセス制御の設定ミス、ソフトウェアの未更新 (パッチ未適用)、鍵管理の不備などが挙げられます。
アクセス制御の設定ミス
SSHのセキュリティは、適切な設定に大きく依存しています。アクセス制御の設定が誤っていると、セキュリティ侵害や、ブルートフォース攻撃の原因となるおそれがあります。SSHアクセスを安全に保つためには、パスワード認証を無効化し、代わりにSSH鍵ペアを使用することが推奨されます。これにより、不正アクセスやサイバー攻撃のリスクを大幅に軽減することができます。
SSHソフトウェアの未更新
SSHのセキュリティを維持するうえで最も重要な点のひとつは、SSHサーバーとクライアントソフトウェアの両方を定期的に更新することです。SSHソフトウェアが定期的にパッチ適用されていない場合、システムにセキュリティ上の弱点が残り、サイバー犯罪者によって不正アクセスやデータ侵害を受けるおそれがあります。SSHソフトウェアを常に最新の状態に保つことで、サイバー攻撃による被害やSSHインフラの侵害リスクを効果的に減らすことができます。
鍵管理の不備
SSH鍵認証は大きなセキュリティ上の利点がありますが、鍵が適切に管理されていない場合には特有のリスクを伴います。秘密鍵が侵害されると、不正アクセスや権限の不正昇格につながる可能性があります。これらのリスクを軽減するために、秘密鍵は安全に保管し、強力なパスフレーズで保護したうえで、定期的にローテーションすることが重要です。また、秘密鍵を他者と共有せず、誰がどの鍵を使えるかを明確に管理することが大切です。